ここは、私立桜花学園。その名の通り、桜がとても綺麗な高校だ。
そこに、ある一人の少年がいた。
彼の名前は橘 ユウ。彼は何処にでもいそうな高校生だが、なぜか小さな不幸にとりつかれている。
例えば、当たりくじ(一万円)を落とした。
遠足の日に限って熱を出す。
弁当を忘れたせいで、昼食は自腹。
その他、いろいろ。
とにかく、不運なことが一日三回もおこる。
あまり自分のことは気にしない彼だが、流石に十七年も不幸が続いていれば嫌になる。
そこで、彼はあることを思いついた。
それは・・・・・・・・・・・・

「ユウ、何してんの?」
姉にいきなり呼ばれたから、少しびっくりした。
「ミサンガ作ってるんだよ」
「いや見れば分かるから。なんでアタシの本を見てるわけ?」
「ミサンガの作り方を見てる」
「それも見れば分かるっつーの」
はぁ。困った。どういえば姉は分かってくれるのだろうか。
・・・・・・分かっているとは言ってたな。じゃあ何故質問をしてくるのだろうか。
「なんでそんなこと聞くの?」
「はーっ・・・・・・」
あ、なんか呆れられた。まぁ、もう慣れたことだけど。
「だ・か・ら!アタシの本を勝手に持ち出して勝手に糸引っ張り出して勝手にミサンガ作ってる事を聞いてるの!」
「あ、そうか」
「そうかじゃない!・・・・・・何でアンタはいっつもいっつもボーっとしてるわけ?」
ボーっとしてるって言われてもなぁ・・・。僕はいつもどおり過ごしているだけなんだけど。
とりあえず、ここから逃げたほうがいいかな。
「じゃ、借ります」
「おいコラ!待て!」
廊下をダッシュで駆け抜けて、自分の部屋に滑り込んだ。
「あ、ミサンガ・・・・・・」
姉の部屋に忘れていってしまったようだ。
・・・また一から作り直せと。
・・・・・・。
作り終わるのは明日になりそうだった。

   ♪

次の日。
僕は出来立ての真っ白いミサンガを左手に結んだ。
で、え〜っと・・・・・・願いを込めるんだったっけ?
お願いお願い・・・・・・・・・。
「ユウー。早くしなさーい」
「うんー、分かってるー」
母さんは少し時間には厳しい。
「いってきまぁーす」
「はい。いってらっしゃい」
玄関を出て数歩。
「あ、体育着忘れた」
家に戻って玄関を開ける。そこには掃除機を持った母さんがいた。
「どうしたん?」
「体育着忘れた」
「そっか。持ってきてあげるよ」
「え?ホント?」
「どこにある?」
「机の上」
母さんが持ってきてくれるなんて滅多にないことだ。ちょっと運がいいかもしれない。さっそくミサンガの効果が出たのかな?
でもミサンガって切れなきゃ効果が出ないんじゃなかったっけ。
「はい。もう忘れ物ない?」
「うん。だいじょぶ」
まぁ、どっちでもいいや。とりあえず学校に行かなきゃ遅刻しちゃう。

バスで十数分揺られて降りると、目の前には桜並木が広がっていて、その奥には大きな校門がある。
校門には学級代表で僕のクラスメイトの如月さんがいた。
如月さんは真っ直ぐで長い黒髪を持つ、完璧な美人さんだ。しかも頭が良くて運動神経抜群ときてる。
「おはようございます」
凛とした声で挨拶をしてくれた。
「うん。おはよう」
ちょっと緊張してそれしか言えなかった。
「あ、ちょっと待って」
「へ?」
やばい。引き止められた。何か違反でもしているのかな。
「何?」
「それ」
如月さんが僕の左手を指して言った。
「左手がどうかしたの?」
「いいえ。左手ではないわ。それ」
よく見ると如月さんの指はミサンガを指している。
「あ、このミサンガ僕が作ったんだよ―――」
「それ、外して」
「へ?」
外してと言われてもなぁ・・・。あ、もしかして欲しいのかな。
「欲しいなら作るよ?」
「ホントに!?・・・・・・あ、そうじゃなくて。それ校則違反なの。外してください」
あー・・・。そういうことか。それは困ったなぁ・・・・・・。
「ミサンガって外すと効果なくなるんだよ?」
「知ってるけど・・・外して?」
「ひどい・・・・・・」
せっかく作ったのに外してなんて・・・・・・。やっぱり運が悪い・・・。
しょうがない。
「ごめん」
「あ、ちょっと・・・」
「じゃね―――」
とりあえず、ダッシュで逃げておこう。

   ♪

トイレに駆け込んで、ミサンガを袖の裏まで上げた。半袖だから隠すのに少しきついけど、大きめに作ってあるから大丈夫。
「これでばれないだろう」
「何がだ?」
うわー。最悪。生徒指導の広口先生の声だ。恐くて後ろを振り返れない・・・。
「い、いえ。何も」
「ほぅ。何もないのか」
「はい。何も」
とりあえず、笑顔笑顔。ばれないばれない。
だがまぁ、この笑顔がさらに怪しくさせているのかもしれないが。
「ちょっと来い」
「あぅ・・・」
この後、どこへ行くのかを僕は知っている。皆が地獄と呼び恐れる場所だ・・・。
実際のところはただの教室なのだが。
「入れ」
「は、はい」
円状に並べられた机が、いかにも会議用の教室という雰囲気をかもし出している。
ここは学級代表が集まる教室だ。
「さ、少し話をしようか」
「はぁ・・・」
広口はとてつもない笑顔で僕を見ている。正直、気持ち悪い。
「君が今朝登校してきた校門は?」
「西門です」
「すると・・・今朝の担当は如月だな」
「はい」
下手に嘘をつくと後で大変なことになる。しかし、正直に話しても大変なことにはなりそうだ。
広口は校内放送で如月さんを呼び出している。逃げることもできたが、それをしたら間違いなく退学だろう。
「とりあえず、如月が来るまで荷物検査だ」
「はい・・・」
多分何も入っていないとは思うけど・・・。僕の運の悪さならわからないなぁ・・・。
「何も入っていないぞ!」
良かった。やっぱり僕の鞄は何も入っていないや。
もちろん、教科書とかも。
なら何故鞄を持ってくるのか、と聞かれると、少し困るけど。
「教科書とかはどうした!」
「ロッカーに置いてあります」
「そうか。ならいいのだが」
うーん・・・。いいのかな?中学のときは置き勉は注意されたけど。
そうこうしているうちに、如月さんが来てしまった。
「お呼びになりましたか?」
はぁ・・・来ちゃった・・・。まさかミサンガ一つで退学はないとは思うけど、この学校は良く分からないからなぁ・・・。
「コイツが来たとき、不審な行動はなかったか?」
僕はドキドキしながら如月さんの反応を待った。如月さんはそれを見抜いているのか、少しじらした。
「いえ。不審な『行動』はありませんでした」
ん?さりげなく行動ってとこを強調したような・・・?
「他には?」
ちょ・・・っ!まだ聞くのかよ・・・。僕の頭には退学の二文字が渦巻いた。さよなら、桜花・・・。
「いいえ、何も」
ぐはっ。終わった・・・。
・・・?あれ?「何も」って言った・・・?
如月さんは確かに「校則違反」って言ってたよな・・・。
と、とりあえず慌てていると怪しまれるから、平常心。
「本当に何もないのか?」
「はい。何も」
「そうか」
「はい。授業に遅れるとまずいので、これで」
「おう。二人とも早く行け」
た、助かった・・・。
「如月さん。ありがとう」
「何が?」
「ミサンガ」
「ああ、それね」
如月さんはなぜかこっちを見て笑った。でも、なんだか少し意地悪そうな笑い方だった。
「だって、広口は『行動』って聞いてきたでしょ?だから、不審な『行動』はしていない、って言ったの。もし『不要物』を聞かれていたら言ってたかもね」
うはっ。マジか。
やっぱり今日は少し運がいいかもしれないなぁ。

   ♪

二人で二年C組の教室に入った。なんとなく男子が睨んできたけど、多分如月さんと一緒だったからだろう。
僕は窓際の後ろから二番目の席を、如月さんはその後ろの席を目指した。
僕の席には何故か先客がいた。
「おはユウ」
その先客さんは時々意味不明なことを口走る。おはユウって何だよ。
「何それ?」
「おはようとユウをかけたの」
「あ、納得」
先客さんは木村くんという。明るいけどちょっと変な人だ。でもかっこいいから、結構モテるらしい。
僕が桜花に入ったとき、一番最初にできた友達だ。
「ユウ、それ何?」
木村君が僕の左手を見て言った。つられて僕も見た。知らない間にミサンガがずり落ちている。
「ん、ミサンガだよ」
「へぇ。買ったの?」
「ううん。自分で作った」
「マジか。出たな。ユウの神の手」
「何それ?」
「器用な手ってことだよ」
「意味わかんないから」
やっぱりちょっと木村くんは変なネーミングセンスを持っているなぁ。
「これ校則違反なんだって」
「え?ミサンガが?」
「うん。そう言ってた」
木村くんは眉間にしわを寄せて考えている。何を考えているのかは分からないけど。
「ミサンガの何処が悪いのか分からんのぉ」
「不要物扱いらしいよ」
「付けてるだけなのにか?意味分からん」
「バレないようにがんばる」
「おう。がんばれ」
酷く気の抜けたチャイムが始業を告げる。僕は急いでミサンガを袖裏に隠した。また見つかっていろいろ言われても困るからなぁ。
「ほらー。席につけー」
皆が一斉にノートと筆記用具を出して黒板に集中する。客観的に見ればとても変な光景だな。
一時間目は現文、つまり現代国語だ。僕は眠る寸前で授業をやり過ごした。古文だったら寝ていたなぁと思いながら、次の授業を確認した。
「次は芸術だってよ」
僕がうんうん唸っているのを見て、木村くんが気を利かせて教えてくれた。
「木村くんは音楽だよね」
「そ。ユウは美術だよな」
「うん」
入学した当初は「芸術」という授業が音楽・美術・習字の三つの選択だということに驚いたが、今では当たり前のようになってしまった。
とりあえず、授業の前にトイレにでも行っておこう。

   ♪

「ふぅ〜・・・」
何か形が浮き上がりつつある木の塊と、僕は格闘している。まぁ、いわゆる彫刻だ。
抽象的な形にしたからなんだか変な感じだ。
「これ、テーマは『虹』だっけ?」
「んあ」
美術の時間、僕の後ろには幼なじみの七海がいる。何かと話しかけてくるのは、彼女が寂しがりやだからだ。
「やっぱユウは手が器用だねっ」
「ん〜・・・。そう?同じことを木村くんにも言われた」
果たして本当に器用なのか。
「僕には七海のほうが器用に思えるけど・・・」
七海は絵画コンクールなどで数々の賞を貰っているすごいやつだ。
だから、僕は今褒めたつもりだったんだけど・・・。
「それはイヤミかしら?アンタのほうが数倍上手いっつーの」
なんか七海は怒っちゃったようだ。
「でも僕賞貰ったこととかないよー」
「それはアンタが応募してないからだよっ!」
「え?でも一回何かに送ったよ?」
多分アレは中三の時だったと思う。
「そのときは特賞貰ってたでしょっ!」
「あ、そっか」
でも、僕はやっぱり七海のほうが上手く見える。
「やっぱ七海のほうが上手いよ」
「だーかーら!それイヤミかって聞いてんの!」
「いや、素だけど」
七海の顔が明らかにムッとした顔になった。
「そうでしたそうでしたアンタは昔からそういうヤツねアンタは素でイヤミを言うようなやつだもんね」
あ、早口になった。七海は怒ると早口になる。
「ごめん」
「素でイヤミを言うとかアンタは根っからのイヤミなヤツねまったくどーしていつも―――」
「そこ!うるさい!」
怒られちゃったじゃないか。

   ♪

作業を開始して十五分後ぐらいたった頃だった。
僕はひたすら木の塊を削っている。
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ・・・。
「ねぇ〜ユウ〜」
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ。
「ん?」
ゴリゴリゴリゴリゴ・・・ぶしゅっ。
「あ」
・・・・・・・・。
「・・・きゃぁぁぁっっ!!」
僕の親指の付け根が紅く染まる。実際のところはあまり痛くないが、七海が相当ビビってる。
・・・・・・痛くないってのも少しまずいかなぁ?
「ちょっと!ユウ大丈夫!?」
「うにゃー」
折角、形ができてきた木の塊が血で赤くなってしまった。
「うわ・・・。やり直さなきゃなぁ・・・」
「とりあえず血を止めろ!」
「分かってるよ」
七海は血が嫌いだ。自分が痛いわけじゃないのになぁ。
ってそんなことを考えているうちに、ミサンガが落ちてきてしまった。
緩く作ってあるので、当然親指の付け根のところまで落ちてくる。
そうすると、どうなるか。
「し、白かったのに・・・赤くなった・・・」
「どうでもいいから血を止めろっ!」

   ♪

「ハァ・・・」
七海が大きい溜め息をついた。
「あのさぁ・・・作業中に手から目を離すバカが何処にいるわけ?」
ここにいますが何か?
・・・とは流石に言わない。七海がキレる。
「でも、呼んだのは七海だよね?」
そう、僕は呼ばれたから振り返ったのだ。呼んだ七海も少し悪いのではないか。
「手を止めればいいだろっ」
「そうすると仕上がりが遅くなるし」
「こんなに赤くなったら最初っからやり直しだぞっ!ちょっと手を止めるほうがよっぽどいいわ!」
「あ、そうだね」
それもそうだな。
・・・同意したのに七海が頭を抱えているのは何故だろう。
「ねぇ、彫刻はどうでもいいんだけど・・・」
「どうでもいいわけなかろう!」
「あ、まぁそれはそうなんだけど」
それよりももっと重大なことがあるのに。
「ミサンガどうしよう?」
真っ白だったミサンガは、ところどころ赤くなっていて少し変だった。
「絵の具で染めれば?」
「おぉ。それはいい」
折角だから虹色にしよう。赤くなっているとはいえ、傷口に接していた一部だけだから修復できる。

その後、上手く染めるのに授業時間を全て使ったのは言うまでもない。

   ♪

「うはー。今日も気持ちいいなぁー」
僕は今、裏庭にある一本の桜の木の下にいる。
何故か。
ご飯の時間だからです。
桜花学園は四角い校舎に、反対側の校舎へ行くための通路があり、上から見ると漢字の「田」のように見えるのが特徴的だ。
皆はその四角く分けられた中庭に集まるので、西側にあるこの裏庭に来る人は滅多にいない。
いたとしても、とんでもなく広い裏庭だから、誰かに遭遇する確率は低い。
初夏の日差しが照りつけるとはいえ、西側だし、木陰だし。風が吹くと涼しくて気持ちがいい。
だから僕は春から夏の終わりにまで、ここでご飯を食べることにしている。
秋になると寒くなるし、なんだか寂しい風景になるので、教室でご飯を食べる。それが僕のスタイル。
「今日のお弁当何かな〜♪」
高校生といえばまだまだ食べ盛り。もちろんお弁当はものすごく楽しみにしている。
ふたを開けると、ぱかっといい音がした。
「・・・ん?」
中に入っていたのは、
「何故に日の丸・・・」
まぁ、日の丸といえば、アレしかない。
真っ白いご飯が敷き詰められ、真ん中に梅干が待っている。
「すっぱいアタシは恋の味!た・べ・てっ☆」と今にも言いそうだ。
・・・もちろん、言うわけはないが。
「な、何で・・・」
日の丸って・・・どんだけ寂しいんだよ・・・。
がっくりしてうなだれた僕の視界に、お弁当を包んでいたフロシキが入ってきた。良く見ると紙が入っていた。
『ゴメンネ☆お弁当のおかず、買うの忘れてたっ☆』と丸っこい母の字が書かれていた。
一瞬、頭が真っ白になった。視界が真っ白なのはご飯しかないせいだ。
「あぅ・・・。寂しいなぁ・・・」
何か売店で買ってこようかとも思ったが、売店は東校舎。
「田」のような通路があるとはいえ、行ってしまったら昼休みの間にはここには戻れない。
「ガマンか・・・」
白いご飯だけを食す。梅干は嫌いだから食べない。
今朝学校に来る前に買ったお茶を飲む。
「すぐ食べ終わっちゃったな・・・」
残りの昼休みをどう過ごそうか。売店でも行って何か買って教室へ戻ろうか。
そんなことを考えていると、ふと、人の気配を感じた。かといって、警戒するようなことでもないけど。
小枝を踏みつけた時の、「パキッ」という音がした。間違いなく誰かがいる。
こんなところへ来るなんて、物好きもいるもんだな。人のことは言えないけど。
さて、どうしようか。
「誰ですか〜?」
とりあえず声をかけた。反応はない。というか、小走りで去ってしまったような・・・。驚かせたのかな?
まぁいいや。教室へ戻ろう。時間もないし。

   ♪

五時間目は死ぬほど退屈な古文だった。開始五分から後の記憶がない。
・・・・・・寝てただけですよ?

   ♪

六時間目は体育だった。今日はドッジボール。対E組戦です。
「きえ〜!!」
すごい勢いでボールが飛んでくる。奇声は謎。
とりあえず、避ける。取る。また避ける。
・・・なんだか狙われているような・・・。
「おい!早くタチバナをやれ!」
気のせいではなかったようです。E組の人の目が真剣です。ヤバいです。
特に真剣なのが、自称「タチバナのライバル」、辻くんだ。
「おい!タチバナ!今日こそ勝つ!」
「・・・そうですか」
ああいうのは適当に流すのに限る。
ボールがふたつに増えた。ふたつともE組がもつ。
「ちょわぁ〜!!」
「食らえっ!!」
ふたつとも僕に向かって飛んできた。ひとつは取って、もうひとつは避ける。
「んぬぁ!タチバナ!ちょこまかすんな!」
「ドッジボールは逃げるものだよ」
「うるさい!お前のせいでいつもうちらは負けるんだよ!」
はぁ。そうですか。
なんか辻くんがあまりにもうるさいので、
「ちょっと君黙って」
「ぐはぁっ!!」
とりあえず当てておいた。
「やっぱユウは運動神経もいいよな」
木村くんが話しかけてきた。その間にももちろんボールは飛んでくるから避ける。
「ん〜・・・。運動は頭使わなくていいからじゃん?」
「お前頭もいいだろ・・・」
「え〜。そうかな」
そんなことをやっているうちにあっという間にE組はあと一人になった。
「よし!これならやれるぜ!」
木村くんがハイテンションになった。こうなると必ず木村くんは当てられる。謎だ。
「うわ!」
やっぱり。
「くそ・・・。あと頑張れ、ユウ」
「まかせといてよ」
あともう少しだ。今日も勝ったな。
ふと下を向くと、
「あ、くつひも」
結ぼうとしたら、顔面にボールを食らった。
「ぃよっしゃぁ!」
・・・。
ああ、辻くんね。はいはい。

そのあと、辻くんにきっちりお返しをしました♪

   ♪

放課後。
今日は美術部がないので、早く帰れる。
「おい、ユウ。早く来いよ」
「んぁー。はいはい」
帰宅部部長の木村くんが待ってました。
・・・帰宅部部長って何だそりゃ。
一人ボケツッコミ(?)をやってみた。ちょっとおもしろいかも。
「何にやけてんの?」
「いや別に」
顔に出ていたようだ。恥ずかしい。変人みたいではないか。
校舎の東練一階が生徒玄関になっている。僕たちの教室は西練なので、少し遠い。
「今日のユウの下駄箱はどーなっているでしょうか?」
木村くんがニヤニヤしながらこっちを見てくる。
そのニヤニヤの理由はわかっているけど、なんだか少しむかつくので、とぼけてみる事にした。
「どうなってるって?」
「恋文ですよ・・・♪こ・い・ぶ・み」
やっぱり・・・。
「おやおやユウ君、顔が赤いなぁ」
「うるさいなぁ!僕は恋バナとか苦手なのっ!」
必死に叫ぶが、ますます木村くんは意地悪そうな笑みを浮かべる。
「大体何で木村くんはそーゆーの少ないんだよぉ・・・」
木村くんのほうがもてているような気がするが。
「俺はさぁー、告られたときに『彼女いるから』ってふるからさー、それが知れ渡って皆あきらめるんじゃん?」
・・・・・・これは、今までの分を言い返すチャンスかな?墓穴を掘ったな、木村くん。
「そーでしたそーでした。木村くんには七海ってゆうステキな彼女がいましたねー」
「うっ・・・」
木村くんの顔が赤くなる。やった。
「七海は確かにかわいいもんねー。小さいときから意外と気が利くし・・・」
「だーっ!!それ以上言うな!言ったら殴るぞ!」
「あー恐い恐い」
「うるせぇ」
そうこうしているうちに、下駄箱に付いた。
「うわっ」「うわっ」
思わず声がハモった。
僕の下駄箱から今にも溢れんばかりに、手紙が入っている。いつもより少し多めだ。
「ほらやっぱり入ってた。モテモテ〜♪」
「うるさい!」
木村くんはいちいちうるさいなぁ・・・。
「お前それ全部読むの?」
「・・・?何で」
手紙を全部カバンにしまう僕に向かって、木村くんがそう呟いた。
「いやー。そんなにあるのに大変だなぁ、って思って」
「読むよ。じゃないと折角書いてくれたのが無駄になっちゃうじゃん」
こんな僕に書いてくれるなんてねぇ。
「律儀なヤツめ。そのくせ付き合わないんだろ?」
「ん〜・・・。僕好きな人いるし」
「え?初耳」
「言ってないもん」
「誰?」
「教えない」
「いいから言えよ」
「ヤダ」
「頑固だな」
「譲れないね」
「あ、そ」
諦めてくれたようだ。遠慮してくれたのかな。木村くんはそういうところ気が利くし。
「まぁ、頑張れよ。お前ならイチコロさ」
「はぁ、そうですか」

それから僕たちは、それぞれの帰路へと行くのであった。

   ♪

それから二週間、同じように退屈だけどどこか楽しい毎日を過ごした。
その毎日が少し変わったのは、夏休みも近くなったある日のこと。
期末試験が終わった頃だった。

   ♪

「さ、最悪だぁ〜・・・・・・」
朝から人身事故で電車が止まりました。
まったく、いつものごとく運が悪い。
確かに、月曜以外だったらラッキーなところである。電車が遅れても遅刻扱いにはならないわけだし。
だが、月曜は困る。何故かというと、二時間目が美術だからだ。
この美術大好きっ子の僕にとってすれば、かなりのダメージになるのである。
しかも今週は、というより今学期はもう美術はない。水曜までで授業はなくなるからだ。
夏休みまでは二週間ほどあるが、水曜より後は期末試験の補習しかない。
その補修を受けるかどうかを知るためにも、今日は早く学校に行きたいのに・・・・・・。
「人身事故って・・・・・・。学校に連絡入れなきゃ・・・・・・」

それから二時間後、電車が動き出した。
今の時間だと、学校に着くのは昼休み前って所だろう。
そういえば、今日は六時間目がカットで、五時間目も十五分ぐらいだって言ってたような・・・・・・。
何のために学校に行くんだろう・・・・・・。

   ♪

予定通り、昼休み前、つまり四時間目が終わる頃に付いた。
門は閉まっているのでよじ登る。
・・・・・・と思ったら開いていてびっくりした。門が動いたので振り落とされそうになった。
玄関前には、今回の期末試験の順位が張り出してあるが、僕はそれを見ない。
なんとなく、順位を付けるということが嫌いだからだ。

静かな廊下を歩いていく。まずは職員室に向かう。
「失礼しまーす。二年C組の橘ですけど」
「おう、来たか」
そこにいたのはあの生活指導の広口だった。なんでコイツがっ!
きっといろいろ五月蠅く言われるに違いない。なんかぴりぴりしてるし。
「確か電車の人身事故だったよな」
「はぁ」
「何線を使っているんだ?」
「へ?線?」
「電車のことだ」
「あ、ああ。○○線ですけど」
「そうか。ニュースにもなっていたな」
「いや、知りませんよ」
「そりゃそうだ」
広口はそう言うと頭を掻きながら一枚の紙を持ってきた。
「ほれ。お前の今回の点数だ」
「はい」
結果は、いつもと変わらず、ってところだった。
「授業に行きなさい」
「分かりました。失礼しました」
あー、アイツと喋るのは疲れる・・・・・・。

教室に着くと、ちょうど終業のチャイムが鳴った。


   ♪

教室のドアを開けると、一斉に皆が僕を見てくる。
まぁ、当然だろう。これだけ遅れてきてこれだけ堂々と入ってくれば皆驚きもするだろう。
しかし、今の時期、つまり試験直後はそれだけが理由じゃない。
「・・・・・・ユウだ」
「ユウが来た・・・・・・」
という反応を皆まずはじめにする。
そして、
「お前また学年一位だったろっ!」
「くっそー!!入学当時からずっとそうやって!」
「すごーい、ユウくん〜♪」
「またこの僕が負けるとは・・・・・・」
・・・・・・。はぁ〜・・・。
「あのさぁ、いつも言ってるけどさぁ。僕が学年一位?そんな嘘つくのやめてくれない?」
「あー!またそうやって!」
「嘘じゃないぜ。むしろ冗談じゃないぜ」
なぜか皆してそう言ってくる。絶対僕みたいなヤツが一位なんて取れるわけがない。
僕より頭がいいのはいくらでもいると思うのにな・・・・・・。
そう思って、一番最初に頭に浮かんだのは如月さんの顔だった。
うん。絶対僕より頭がいいよ。如月さんのほうが。
「あー、もう。判ったよ・・・・・・」
「くっそー!一位だからってまた余裕ぶっこいて!お前カンニングでもしたんじゃないのか!」
「ちょっと!ユウくんはそんな事しないわ!」
「そうよ!あんたみたいなブサイクとは違うの!」
・・・・・・いつもと同じパターンだ・・・。
とはいえ、こんなゴタゴタも次の授業が始まる頃にはなくなっている。皆仲がいい証拠だ。
・・・・・・一番クラスの雰囲気を乱しているのは僕かもしれないが。
始業のチャイムが鳴って、皆が席に着く。
僕の大嫌いな古文だ。寝てやり過ごそう・・・・・・。

   ♪

それに気付いたのは昼休みが終わった頃だった。
お気に入りの場所でお昼ご飯を食べて、教室に帰って木村くん達と話しているときだった。
「あれー?」
「どうした、ユウ?」
「・・・・・・ミサンガがない」
「・・・ふ〜ん」
「何その反応。薄っ」
「いやだって、どうしろと」
どうしようもこうしようも・・・・・・。
「切れる前に外しちゃうと効果がなくなるんだよ」
「ふ〜ん」
「だから・・・・・・」
「じゃあ切れたことにしちゃえばいいじゃん」
え?
「どーゆーこと?」
「『病も気から』って言葉があるだろ?切れたってことにすれば効果が出るかもよ?」
「・・・・・・か・・・・・・」
「ん?」
「そっか!そうだね!うん、そうしよー!」
そうしちゃおう。切れてなくても切れたということで!

効果は意外と早く来た。
五時間目の科学が先生の都合で美術に変更になった。
すごくラッキーだ。
だがしかし、十五分ほどしかないところが残念といえば残念だ。
まぁ、ないよりはましだ。二時間目の分も頑張ろう。

帰り道、千円を拾ったり、すぐ帰りの電車が来たり、とにかくラッキー続きだった。
さすがミサンガ。ありがとうミサンガ。
ミサンガ君が切れてくれたおかげである。
・・・・・・切れたかどうかは知らないけど。
明日もいいことがあるだろうと、僕はそう思いながら寝ることにした。

   ♪

次の日、朝、目覚ましがなる前に起きた。
目覚ましがなる前に起きるとは、結構嬉しい。
自分で起きるとスッキリとした目覚めになるからだ。
左手にミサンガがないのが少し寂しいけど、それはそれとして。

   ♪

最初に見たときは正直ビビった。
いつものごとく、お昼ご飯を裏庭の木の下で食べようと思ったら、先客がいたのだ。
普通の授業があるのは今日で最後なので、この木の下で食べるのも今学期は最後だと思ってたのに。
一人だと思ったのに・・・・・・。
だがしかし、そこにいた人は僕にとって少し意外で、一緒にいても悪くない人だった。
・・・ん〜、悪くない、じゃなくて、かなり良い、かな。
「如月さんじゃん」
「こんにちは」
にこやかに笑う如月さん。
なんとなく立ってるのも変だったので、如月さんの隣にすとんと腰を下ろした。
「あ・・・・・・」
「あ、嫌だった?」
やっぱり、「隣いい?」って聞いてからのほうが良かったかな?
「え、ちがっ・・・。嫌じゃないけど・・・・・・」
ならよかった。「嫌だ」って言われたら、きっとショックで三日は寝込むだろう。
僕はお弁当を広げた。今日のおかずはいっぱい入ってる。いちいち数えるのが面倒くさい。
如月さんはサンドイッチとイチゴ牛乳(パック)。
サンドイッチは手作りっぽいけど、イチゴ牛乳は何処にでも売ってそうなやつだ。
ん?如月さんも結構なお金持ちだよな?
何故に安めのイチゴ牛乳?
視線に気付いたのか、如月さんがこっちを見た。
「なに?どうかした?」
「えっ、別に何もないけど・・・・・・」
さりげなくイチゴ牛乳に目をやる。
「ああ、イチゴ牛乳?」
如月さんは気付いてくれたようだ。
まぁしかし、「お金持ちなのに、何で庶民のイチゴ牛乳?」と聞くのも何だかなぁと思い、僕が考えを巡らしていると、
「このイチゴ牛乳好きなの。家で作ってくれるのだと甘さが足りなくて」
「へぇ〜。実は甘党?」
「そうね・・・・・・。甘いのは好き」
「ふ〜ん・・・・・・」
・・・・・・。
そして、(気まずい)しばしの沈黙・・・・・・。
だがしかし、如月さんがその沈黙を破る。
「あ、この前のテスト、また学年一位だったね」
「へっ?」
驚いた。まさか、如月さんまでそんなことを言うなんて!
「またまた、冗談でしょ?如月さんのほうが頭いいって」
如月さんの顔が明らかにムッとした。
「・・・あのさぁ、八百点中七百九十五点も取るような人に勝てると思う!?」
「へ?何で僕の点数知ってるの?」
「アナタ玄関に貼ってあった学年順位表見ないの?それに載ってるわ!」
「へ、へぇ〜・・・・・・。そうなんだ〜・・・・・・」
如月さんがフゥと溜め息をついた。
「今までずっと見てなかったの?順位表?」
「ん、うん。僕何でもかんでも順位付けるの、嫌いなんだ」
「ふーん。あ、でも自分が学年の三位以内に入ってたのはいくらなんでも知ってたでしょ?」
「ううん。知らなかった」
「え?だって特待生で授業料免除になってたでしょ?」
「あ、そうなんだ」
だから、ごく普通のウチが超金持ち校に通えてたのか。てっきり借金でもしてるのかと思った。
「それも知らなかったの・・・・・・」
如月さんがうなだれた。
・・・・・・。
再びの(さらに気まずい)沈黙・・・・・・。
またもや沈黙を破ったのは如月さんだった。
「あ、そうだ」
如月さんが胸ポケットから虹色をした紐みたいなのを出した。
それは、てっきり切れたと思い込んでいたミサンガだった。まだ繋がっている。
「はい、これ。落ちてたよ」
「ありがとう」
如月さんが持っていてくれてたんだー。なんか嬉しいなー。
しかし、僕はそこである疑問に気付いた。
「あれ、これ虹色に変えたのに、どうして僕のだって分かったの?」
「そんなの、ずっと見てれば分かるわよ」
「あー、そっか。それもそうだよねー」
・・・・・・。
ん?
「ずっと見てた?」
「えっ?あ、いやっ、え〜っと、その・・・・・・」
如月さんがしどろもどろになったところを、僕ははじめて見た。しかも顔が赤い。
「その〜・・・ずっと見てたってのは・・・・・・その〜・・・・・・」
「あ、如月さんは風紀委員だもんね」
「そ、そうよ。皆を見るのは当然だわ」
如月さんは妙に落ち着きを取り戻してそう言った。しかし顔はまだ赤い。
ふむ。これはちょっとカマを掛けてみるか。
「でもさー、ミサンガって不要物じゃなかったっけ?」
「えっ?」
「付けてるって気付いてたのにどうして何も言わなかったの?」
「だ、だってそれは・・・・・・」
今度は如月さんは黙り込んだ。
またもや沈黙である。
そして、その沈黙を破るのもまた同じ人であった。つまりは如月さんだ。
「だって・・・・・・」
そこで如月さんは少しうつむいた。顔がやばいぐらい赤い。
「だって、もし先生に報告して、橘くんが退学になったらどうしようって思ったから・・・・・・」
あー、僕のことを考えてくれてたのか。
「じゃあ、僕に注意したあの朝は?」
「先生に気付かれる前に外してもらおうと思って・・・・・・」
そうだったのか・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・ん?何だこの気まずいシチュエーションは?
ど、どうやってこの状況を打開すればいいんだ・・・・・・?
いまだに如月さんの顔は赤い。どーすればいいんだ・・・・・・?
僕の頭の中でいろいろなものがぐるぐると渦巻いていた。
そんな時、僕はあることを思い出した。
「そういえば、あの日の朝、『ミサンガあげようか?』って言ったら『欲しい』みたいなこと言ってたよね?」
「えっ。・・・・・・そーいえば、言ったかしら・・・・・・」
「今度作ってくるよ」
立ったその一言で、如月さんの顔がさも嬉しそうになった。
「本当!?」
あまりの喜びように、僕は少し驚いた。
「えっ、う、うん。約束する」
「ありがとう!」
如月さんが綺麗に笑った。眩しすぎるぐらいの笑顔だった。
よし。これを口実にして・・・・・・。
「じゃあさ、もしかしたら夏休みになっちゃうかもしれないから、メアド交換しようよ」
「うん。分かった」
如月さんは小さなメモ帳を取り出した。それに、おそらくは自分のメアドを書き込んでいる。
「はい、これ」
「メアド暗記してるの?」
「ええ。いちいち携帯出すのめんどくさいし」
やっぱ頭いいなぁ。
僕は携帯を取り出して、自分のメアドを如月さんに伝えた。

それから教室に帰るまで話さなかったけど、今度はあんまり気まずくない沈黙だった。
如月さんとメアド交換・・・・・・。これほど嬉しいことはない。
やっぱりこれも、ミサンガがもたらしてくれた幸せだろうか。

   ♪

特に夏休みが好き、ってわけじゃないけど、やっぱり何だか嬉しくなってしまう。それが夏休み。
僕たちは今、一学期最後の行事、つまり終業式の真っ最中だ。
もちろん、終業式は体育館で行う。
中学生までは、体育館といえば学校で最も暑い場所のひとつだが、桜花学園にはクーラーが付いているので、そこまで暑くはない。
さすが金持ち私立。
しかし、クーラーが付いているとはいえ、退屈な理事長の話を集中して聞けるかといえば、そんなこともない。
僕の頭は夏休みをどうやって過ごすかでいっぱいだ。
なにせ、如月さんとメールアドレスを交換したのだから(しかし、まだ一度もメールをしていないのが問題だが)。
「一緒に遊ばない?」みたいなメールを送って、いろいろどこかへ行っているうちに、二人の距離は縮まっていって―――。
なんてくだらない妄想に浸ってしまうほど、今の僕は浮かれまくっていた。
これも全て、ミサンガのおかげだろうか。
だとしたらミサンガ様々だね。うん。
僕はポケットに入っている虹色のミサンガを取り出して、それをじっと見つめた。
思わず、ニヘラとしてしまう。
うわっ、変人だ。
自分でも思うのだから、今の僕を誰かが見ていたとすると・・・・・・。
まぁ、大丈夫だよな。
退屈で、しかも長い話を終えた理事長が壇上から降りてくる。
もうすぐ、終業式も終わる。

   ♪

通知表がきたら、しばらくは皆とは会えない。
もちろん、どこかで遊んだりすれば会うだろう。
しかし、桜花には金持ちが多い。
金持ちは大抵の人はどこか避暑地へ行ってしまう。
果たして、いつまた会えるのか。
・・・・・・二学期が始まれば会えるけど。
でも、とりあえずはしばらくのお別れだ。
寂しいといえば寂しい。
「ユウは夏休み予定あるのかー?」
木村くんがお迎えのベンツの窓を開け、僕を見た。
「ううん。特に何も」
「ふーん。そっか」
そこで木村くんはニヤリと笑ったような気がしたのは何故だろう。
「まぁいいや。それじゃあ、しばらくバイバイだな」
「うん。また今度ね」
「おうよ」
木村くんを乗せた車が走り出した。
何だか取り残されたような気がして、僕は駅へと向かった。
「橘君」
如月さんの澄んだ声がした。
振り返ると、名前は知らないけど、とりあえず高級そうな車の窓から、如月さんが顔を出している。
「夏休み中、何か予定はあるかしら?」
「んー、ないよー」
皆予定を聞いてくる。何故だろう。僕はいつでも暇人なのに。
如月さんは木村くんとは違い、何かほっとしたような笑顔になった。
「そう。じゃあ、私も暇なとき連絡するね」
「うん。分かった。いつでも行くよ」
「ありがとう」
「うん。それじゃあ、バイバイ」
僕が帰ろうとすると、
「あ、ちょっと待って!」
と如月さんがあわてて言う。
「家まで送るわ」
「え、別に大丈夫だけど」
送ってもらうなんて。迷惑になってしまうのではないか。
そんなようなことを僕が口にすると、
「ううん。いいのいいの」
とあっさり返ってきた。
僕は少し迷ったけれど、甘えることにした。

   ♪

その日の夜。
僕は初めて如月さんにメールをしようと思った。


おまけ

ユウが帰ったすぐあと、一人の少年がユウを探していた。
彼の名は辻 大河。自称タチバナのライバル。
だが、ユウには相手にされてない、ということにいまだに気付いていない、間抜けな少年である。
そんな彼は、ユウを探している。
理由らしい理由もないが、あえてそれを彼に問えば、こう返ってくるだろう。
「アイツと夏休み中に決着を付けるためだ!」と。
しかし、彼が探している相手はもういない。
彼がユウを呼ぶ声は、ほとんど誰もいない校舎にこだましている。
「おぼっちゃま・・・もういい加減に帰っては・・・?」
「五月蠅い!アイツを見つけるまでは帰らん!」
彼の迷惑につき合わされている執事も可哀想である。
「くっそ、ユウめ・・・・・・。さては逃げたな」
彼の顔が急に輝いた。それはもう素晴しいほどに。
「そうか!逃げたのか!この辻 大河に恐れて逃げたのだな!はっはっはっは、不戦勝だ!」
彼の笑い声が虚しく校舎にこだまする。
残り少ない生徒は、そんな彼を不審そうな目で見て帰っていったのだった。

彼は気付かない。一つだけユウに勝っているものがあることを。
それは・・・・・・。

「辻くんって多分桜花で一番頭が変な人よねー・・・・・・」
「・・・・・・如月さんって結構酷いんだね」
「え?何が?」
「本当のことだとは思うけど、ストレートに言うなんて・・・・・・」

そんな話をされていることを、彼、辻 大河は知らずにいる。

はい。オチなし。



目次へ